日本共産党
川崎市議会議員(中原区)

市古次郎

ブログ
2021年3月21日

PCR検査は抑制か、拡充か

 3月議会も19日で閉会となりました。その会期中に行なわれた予算審査特別委員会。私は質問の中で特に保育園、学校での検査拡充を求めましたが、一方でPCR検査について懐疑的な見方をする議論もありました。議員が何を主張されようと自由であり、事実無根ではなく、エビデンスを挙げて主張されているわけですから、それを否定するものでは決してありません。むしろ興味深く、様々な議論がされてしかるべきだと思います。

 しかし未だにある検査抑制論と拡充論。

 そんな議論をしているのは日本だけ。

 川崎は未だにそんな議論をしているのか?

 とのご指摘を頂戴するかもしれませんが、私は拡充を訴えさせて頂いた責任で、と言っても私の分析ではなく、有識者、専門家の見解、報道等をお示ししながら、そもそもPCR検査とはなんなのか?簡単にご紹介させていただきながら、ご説明させて頂ければと思います。

1⃣PCR検査とはなにか?

福井新聞オンライン2020年3月20日掲載画像より

 PCRという手法を発明されたのは、キャリーマリス博士。著書「マリス博士の奇想天外な人生」の冒頭でホンダシビックでカリフォルニア州の高速を快走させていたデート中にひらめいた。と記述があります。

 同書の中でノーベル賞授賞式での講演の模様が少し描かれていますが、

「専門用語を使って説明してもおもしろい話にならない」

 と、まとめられていますので、以下、神奈川県衛生研究所HPより抜粋いたします。

 あ、ちなみに、ノーベル賞より先に、どの国よりも先んじてマリス博士に賞を贈ったのは日本(日本国際賞)だったようです。

 閑話休題。以下、神奈川県衛生研究所より抜粋です。

 ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction PCR)は、DNA(デオキシリボ核酸(Deoxyribonucleic acid)は、核酸の一種)を増幅するための原理またはそれを用いた手法で、手法を指す場合はPCR法と呼ばれることの方が多いが、ポリメラーゼチェーンリアクションとも呼ばれる。
次の特徴を持つ。

 ヒトのゲノム(約30億塩基対)のような非常に長大なDNA分子の中から、自分の望んだ特定のDNA断片(数百から数千塩基対)だけを選択的に増幅させることができる。しかも極めて微量なDNA溶液で目的を達成できる。増幅に要する時間が2時間程度と短い。

神奈川県衛生研究所 – Bing

 ごく簡単に言うと、PCRとは、短時間で特定のDNAを数百倍、数千万倍に増やす技術。とご説明されている先生もいます。

 医学、医療分野だけでなく、品種の識別も可能で、例えば「コシヒカリ」としてお米を売り出しても、PCRで調べればすぐに本物かどうか判別ができ、ネットで検索すると、実際に検査キットを販売している事業者さんもいらっしゃいます。

 また、犯罪捜査、親子鑑定、個体識別などにも使われ、髪の毛一本から犯人が…というドラマチックな展開も、その陰の立役者は微量なDNAの増幅が可能であるPCRという手法ということに。

 医師であり東京大学・岐阜大学の名誉教授、黒木登志夫先生は著書「新型コロナの科学」の中で、

 PCR検査はすごい発明だ。何しろPCR検査を使えば、ほんのわずかなサンプルからでも、目的の遺伝子があるかどうか分かるのだ。

2⃣PCR検査は万能ではない

 医師であり、神戸大学医学研究科感染症内科教授、岩田健太郎先生は著書「僕が「PCR」原理主義に反対する理由」の中で、

 あらゆる検査には間違いがおこる…例えば新型コロナのPCRなら、陽性という検査結果が「間違った陽性かもしれないというリスクを考えなければいけない。しかし実際には「偽陽性など存在しない」といういわば「原理主義」とでも言うべき主張をする人がいます。

 あらゆる検査は間違える。検査の正しさを示す指標に、感度、特異度を挙げられ、

 感度とは「病気を見逃さない能力」のことです。たとえば感度100%の検査なら、本当に病気がある人はすべて陽性と判定されます。感度70%の検査なら、本当に病気がある人が10人いたとき、そのうちの3人は陰性と判定されます。つまり病気がある人を3人、見逃してしまうわけです。

 特異度とは病気でない人を正しく「病気ではない」と判定する能力です。…特異度70%の検査なら、本当に病気がない人が10人いたとき、そのうちの3人は陽性と判定されます。つまり10人のうち3人は本当の病気ではないのに病気と判定されてしまう。

 PCRの感度/特異度について「感度は70%、特異度は95%」という医学論文を紹介し、ベイスの定理で示された概念、事前確率を用いながら「念のための検査はやるべきではない」と主張されています。

 一方で、検査拡大を主張されている黒木先生は、さきほどご紹介した通り、PCR検査を絶賛されつつも、感度と特異度に関しては、アメリカの50州、77カ国のPCR検査成績を分析した報告を引用し、感度は75%、特異度は99%と紹介。岩田先生の言うところの「PCR原理主義者」に該当していません。

 その黒木先生は、厚労省(新型コロナウイルス感染症対策分科会)が昨年10月29日にまとめた検査の基本方針と戦略について

 この分類自身、厚労省が感染防止の観点よりも、症状のありなしにこだわり、無症状者への検査をしたくない…ことが分かる。

 と指摘し、

 上記、2のb、すなわち症状がなく、感染リスクも検査前確率も低い人に対する検査拡大の反論…その理由付けにパワーポイント6ページを費やしている。

PowerPoint プレゼンテーション (cas.go.jp)

 その理由に対する反論(カッコ内)を以下のようにされています。

  • 検査時陰性でも、その後陽性になる可能性がある(当たり前)
  • 一定数の偽陽性、偽陰性が存在すること(完璧な検査はない。再検査で除外する)
  • 実務的に極めて困難で、検査の負荷が拡大すること(それを解決するのが厚労省の仕事)
  • 医療機関と保健所の負荷が増大すること(検査しないと感染増によりさらに負担が増える)
  • 国際的に無症状者への検査により感染制御に成功したエビデンスがないこと(「どこでも誰でも検査」が世界の常識)

 また、医師であり、特定非営利法人医療ガバナンス研究所理事長の上昌広先生は著者「日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか」の中で、

 英科学誌「ネイチャー」は…「コロナの検査は感度より頻度が重要」…PCRの感度が不十分な点(30~50%を誤って陰性としてしまう)を繰り返すことで克服しようとしています。

 具体的にはPCR検査を毎週実施することを推奨している。ハーバード大のチームの研究も紹介していますが、2週間に1回ではダメらしいのです。日本にいると想像できませんが、世界ではPCR検査の回数を懸命に増やしています。例えば米プロバスケットリーグNBAは毎日、野球の米大リーグMLBは隔日、サッカーの英プレミアリーグと独ブンデスリーグは週2回、PCR検査を受けることが義務付けられています。

 感度が低ければ繰り返し行なうというのが…世界的な常識です。仮に3割エラーが出るとして、2回PCR検査を受けて、エラーになる確立が9%、3回受ければ1%以下になります。

 黒木先生、上先生はPCR検査が万能でないことを認めつつ、再検査を行なうことで克服できる。それが世界の常識という主張をされています。

 また岩田先生も、PCR検査の不十分さを指摘しながら、

 検査結果という不確かなものに対して、医者はどう向き合えばいいのでしょうか。結論から書きます。

 最も大切なのは「医者が患者さんの話をよく聞くこと」です。

 患者さんの話をできる限り詳しく聞く。事前確率を推定することで、検査の価値も意味も変わるとされています。

 事前確率の詳細については、先生の著書をお読み頂ければと思うのですが、岩田先生は不十分なPCR検査を医師としてどう補うか、日々ご尽力されていると感じます。

3⃣増幅回数

 この議論については、日本経済新聞が取り上げていますので、以下、添付、抜粋します。

新型コロナ: PCR「陽性」基準値巡り議論、日本は厳しめ?: 日本経済新聞 (nikkei.com)

 PCR検査は検体の温度の上げ下げを繰り返すことで、ウイルスの中にあるRNAを増幅し、感染の有無を判断する。わずかな量でもウイルスを検出できれば、感染を確認できる。ウイルスが存在しないか、極めて少なければ「陰性」と判断される。

 陽性と判断する基準値には、増幅に必要なサイクル数(CT値)を使う。基準を高く設定するとウイルス量が少なくても陽性と判断される。国立感染症研究所の新型コロナの検査マニュアルでは、原則この値が40以内でウイルスが検出されれば陽性と定めている。

 一方、台湾では35未満に設定しているとされる。日本で陽性となった人が台湾では陰性となる可能性がある。中国は中国疾病対策予防センター(中国CDC)によって37未満を陽性と判断するが、37~40の場合は再検査などを推奨している。

 日本でも一部検査機関では40に近いと再検査する機関もあるが、国の指針などはない。国際的にも40程度に設定している国が多いとみられる。

 基準値が問題になるのは、この値を高めに設定すると、ウイルス量がごく微量で、他人に感染させる恐れがない人まで陽性と判断してしまう恐れがあるためだ。入院や治療が不要な人まで陽性とされる懸念がある。

 日本臨床検査医学会で新型コロナ対策を担当する柳原克紀・長崎大教授は「ウイルスが極めて微量だから感染性がないとは現状では言えない。使う機械や試薬によってもCT値は異なる。この値だけで断言するのは難しいだろう」と指摘する。

 基準値を高めに設定することで、発症前や感染初期でウイルス量が増える前の陽性者を確実に見付けやすくなる可能性もある。柳原教授は「現在は安全性を第1に考え、日本は最も厳しく設定されている。研究が進めば基準の変動もあり得る。国際的な議論が必要だろう」と指摘する。(記事より抜粋)

 この議論について、黒木先生、岩田先生、上先生は著書の中で直接触れられていませんが、岩田先生は

 PCRはウイルスの遺伝子を見つける検査です。結果は陰性/陽性の二種類で示します。「不明」とか「微妙」とかいった結果はありません。「この人の体内にウイルスがいる」と判定できるボーダーラインを閾値といいます。閾値を超えれば陽性で、超えなければ陰性です。

 ある検査の感度を上げるためには「病気と判定する基準」、つまり閾値を下げていくことになります。たとえば「一万個以上のウイルス遺伝子が検体から見つかれば陽性」という基準があったとして、それを「1000個以上のウイルス遺伝子が見つかれば陽性」と変更すれば、「本当の病気の人を見逃してしまう確率は理論的には下がります。しかし閾値を下げると、特異度も下がってしまうというジレンマが起きるのです。「あなたは病気ではありませんよ」と判定されたけれども「実は病気だった」という人が増えてしまう、という現象がおきるのです。

 記事の中の榊原教授の「安全性を第一に考えた日本の設定」、岩田先生の実は感染されていた方が増えていくという指摘を鑑みれば、感染拡大防止の見地からは、現在の数値で妥当なのではないかと考えます。 

 また、少しインターネット上でのブログなどを確認しますと、

  • 他国と比べているけど、国ごとにプロトコル(複数の者が対象となる事項を確実に実行するための手順について定めたもの。)も違う。
  • 日本も疑わしきものは再検査している。

 などの記述も散見されます。この項目については、すごく専門的な分野ですので、国際的な議論は継続して必要と感じます。

 ※個人の方のブログなので添付はしませんが、「理系院卒の怒り」というブログは大変、勉強になりました。

4⃣無症状者は感染させない?

 「無症状者は感染させない」と主張される学者さんもいらっしゃいます。

 一応…触れておきます。

 黒木先生の著書の中で、

 無症状者からの感染が新型コロナウイルスでおきるのは…2020年1月末、ヨーロッパ最初の感染事例の分析からであった。このことを最初に発見したミュンヘン大学病院のローテは、タイム誌の「2020年の100人」に選ばれた。それだけ重要な発見であった。しかし「無症状感染者からの感染」という重要な発見は、最初は受け入れられなかった。

 当時、もしこの報告、警告を軽視していなければ、パンデミックはおきなかった?と主張されている方もいます。

 無症状者からの感染が例外的な感染様式でないことは、その後の研究によって疑う余地はなくなった。5月になると、44-56%の感染は無症状者という報告が相次いだ。オックスフォード大学の分析によると、46%が発症前の無症状感染者から、38%が症状のある感染者から、10%が最後まで無症状の感染者から、6%はその他の感染ルートであると推定している。

本市の「今、何の病気が流行しているか!」より

5⃣陽性者は感染者ではない

 予算審査特別委員会で「陽性者は感染者ではない」という文言をHPに載せるべきではないか?という議論がありました。

 岩田先生は著書の中で、

 医者は「検査が間違える可能性」を常に加味した上で判断しなければいけません。たとえば新型コロナのPCRなら、陽性という検査結果が「間違った陽性(偽陽性)」かもしれないというリスクを、必ず考えなければいけないわけです。逆もまた然りです。PCRが陰性だということを根拠に「この人は感染していない」と決めつけることはできません。

 その見解は、医師の診察過程で検査結果のみを鵜呑みにしない。という場面で必要になってくるかもしれません。そして、川崎市が行なった対応は

川崎市:新型コロナウイルス感染症発生状況データ (city.kawasaki.jp)

 赤枠内の文言の追記です。つまり、もともと医師が新型コロナウイルス感染症と診断したものを陽性者として計上していたわけですから、指摘にはあたらないという文言とも受け取れます。

6⃣まとめ

 以上が、本市、予算審査特別委員会で行なわれたPCR検査についての議論の主な内容(項目)です。あ、PCRを発明したキャリーマルス博士が「PCRはウイルスの特定にはふさわしくない」と言っている。という趣旨のモノもありましたが、それについては「コロナの時代を生きるためのファクトチェック」に掲載されていますので、ご興味ある方はお読み頂ければと思います。さて、冒頭で申し上げたとおり、議論、主張は自由であります。少しまとめますと、

 今回、私が読ませていただいた先生方の共通の認識は

 新型コロナ感染症は恐ろしい病気

 という点です。

 やはり最も重要なのは、新型コロナ感染拡大をいかに食い止めるか、その観点でなにをするかです。

 そしてそれは2⃣PCR検査は万能ではないの部分に記載したところに尽きるのではないかと思います。

 岩田先生の最前線の医療現場のお立場から、やみくもにPCR検査を増やすべきではないという主張は大変勉強になりました。

 但しそれは、1日10万人のモニタリング検査を否定しているものでもありません。市町村レベルで新型コロナ感染者がゼロ、若しくはゼロに近い地域に検査をするべきではないというモノです。

 そして、考えることをやめない。

 例としてあげられていたのが

「感染者は増えているが、病床は逼迫していない」

 政治家や官僚、メディアの使う「言葉」に対して…よく吟味すること。あらゆる情報を盲信しないこと。これもまた感染対策の一つなのです。

 と綴られています。

 最後に、黒木先生の「PCR検査のあるべき姿」を一部ご紹介して終わりたいと思います。

 以下、四つのステップを踏んで、感染予防、医療維持と平行して社会の安心と安全を達成し、感染防御と経済再生を達成しようという戦略である。

  • ステップ1:新型コロナ患者レベル
  • ステップ2:医療従事者レベル
  • ステップ3:感染リスク者レベル
  • ステップ4:社会の安全安心レベル

 誤解のないように付言すれば、ここでいう安全と安心とは、なんとなく心配だから検査してほしいという「個人」レベルの検査ではない。「社会」の安全と安心のための検査である。人々が安心して暮らし、安全に働ける社会を作るための検査である。

 「社会」の安全と安心のためであれば、公費を使ってでも行なう必要がある。現に日本医師会はそのような方針を出している。

 これを達成するためには…と具体的な改善方法も綴られていますが、それはぜひ黒木先生の著書をお読み頂ければと思います。

 今回、ブログを掲載させて頂くにあたり、時間の許す限り、医師、専門家等の方々の著書を改めて読ませていただきましたが、どれも大変参考になるものばかりでした。まだまだ一部にすぎないかもしれませんが、今後も調査、研究を続け、しっかりと事実、科学に基づいた提案、要望をしていきたいと思っております。長くなり、申し訳ありません。

 最後までお読みいただきありがとうございました。

参考文献

  • 【マリス博士の奇想天外な人生】 キャリーマリス
  • 【新型コロナの科学】 黒木登志夫
  • 【僕が「PCR」原理主義者に反対する理由】 岩田健太郎
  • 【日本のコロナ対策はなぜ迷走するのか】 上昌広
  • 【コロナの時代を生きるためのファクトチェック】 立岩陽一郎
  • 【PCR検査を巡る攻防】 木村浩一郎

※全ての書籍は川崎市立図書館で貸出しています。

川崎市立図書館 (city.kawasaki.jp)


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